強迫性障害の全貌

強迫性障害の知識の普及 Link Free

強迫性障害に効く薬

SSRIは本当に強迫症に効くのでしょうか?

前回も書きましたが、SSRIにはセロト二ンを増やすだけでなく、抗コリン作用があり、そちらのほうが体感はしやすいのです。

抗コリン作用には交感神経を活発にするような賦活作用があり、これが気を強めたりする抗うつ効果でもあるのですが、増量することでイライラ、ムシャクシャしやすくなったのなら、充分効いているということなので、そんなに増やさないほうが良いのです。
増やしても性格が明るくなって元気が出るとかそういうことではなく、興奮作用みたいな感じです。
身体面には動悸や乾燥(渇き)としても出ます。
特に涙や唾液なとが出にくくなりますが、多少汗が抑えられたり、人によっては乾燥で髪質が変わったりすることもあるようです。

抗コリン作用には、脳に対して鎮静的に作用する面もあり、例えば、SSRIを飲み始めの頃に眠くなったり、他によく知られている作用としては、認知力の低下があります。
高齢者にSSRIが使えないのは、それがあるからです。

認知力の低下は、強迫性障害には効果として感じられることもあり、強迫性障害の適応薬は、他のSSRIに比べ、抗コリン作用が強いタイプが使われます。
低下といっても、もうろくするほどではありませんし、比較的若く、認知症のような病態でない限り問題ありませんし、薬を止めれば認知能力も元に戻ります。

抗精神病薬にも抗コリン作用はありますが、賦活作用以上に脳に対する鎮静作用が強力であるため、抗うつ効果はなく、逆に不活発な陰性症状の状態になります。

以前にも書きましたが、抗精神病薬で一時的に強迫観念が弱まっても、強迫観念は完全な妄想ではなく、現実と結び付いた思いなので、薬を減らして現実をはっきりと認識するようになれば、強迫観念もはっきりと表れてしまいます。
逆に言うと、現実的な恐怖や嫌悪を伴う強迫観念ではなくて、現実と関係ない思い込みとか妄想で強迫症状が出ていた場合は、抗精神病薬も有効であることが考えられます。
妄想は現実に対する反応ではないので、妄想さえ取り除けば、通常の現実だけが残り、強迫観念という現実への嫌悪反応は出ないのです。

ただ、通常は思考や言動などの解体(分裂症状)がないと統合失調症として治療ができないので、もし妄想が強くても強迫症状が目立ち過ぎて、分裂症状が抑えられているタイプは、強迫性障害としてSSRIを使うことになります。

強迫観念に一番効く薬は、いわゆるハッピードラッグであり、恐怖や嫌悪感がなくせる薬ですから、医療用の薬品としては今後も使用できません。
強迫観念(考えたくもない嫌な考えや思い)や恐怖や不安を本当になくす薬があれば、強迫性障害でなくても、多くの人がそれを求めますから乱用される恐れがあります。
国としては医療費を減らしたいので、そのような売れ過ぎる薬は認められないのです。

例えば、スポーツ選手などがパフォーマンスを向上させるために、SSRIを大量に飲んでいるという話は聞いたことがありません。SSRIが、憂鬱気分や不安や強迫観念に効くといっても、それほど大した力量はないのです。

強迫性障害にあまり効かないとしても治療法として何か適応薬がないと困るし、飲むとしたらSSRIが一番安全で無難なので適応薬になっているわけです。
効くかどうかは、増量に耐えられるかとか病状にもより、SSRIだけで治せる人もいれば、全然まったく効かない人もいます。
強迫性障害へのSSRIの効果は、ほとんど抗コリン作用でのプラセボ効果のようなものなので、効かない人のほうが多くても不思議ではありませんが、精神面においては何もしないよりは飲んだほうが治療的ではあります。

最近は、森田療法のマネをして、治せるとか、治ったという話で、本や教材を売ろうとしているステマなどがネットには多いので注意して下さい。
強迫性障害の患者は希望を持てることが少ないので、そういう話を求めるのだと思いますが、治せるのはあくまで一部の軽症患者です。
行動療法は、通常は薬であと少しの所まで軽症化した人が取り組むことであり、重症の人がいきなりできることではありません。
強迫観念というのは、治そうとしても治そうとしなくても、意思に関係なく頭に浮かんでしまう性質があるので元々治し難い症状であり、強迫性障害はその強迫観念にとり付かれ、不合理(社会的に無駄な無意味なこと)をせずにはいられなくなり、日常や社会活動が困難になってしまう状態です。
一旦、重くなった強迫性障害は軽くなったりはしませんので、重症化してやっと治療を始めて、薬が全然効きませんという人は、治す手立てがありませんから、その後も重症のまま生きることになります。

ですが、そんな現実的な話は聞きたくないのでしょう。
そういう人が、心の救いとして、治す方法や治りましたという本などを読んで希望を持ちたいということでしたら、悪くはありません。
実際の効果よりも、そんな人達に求められ今も続いているのが森田療法であり、一種の宗教に近い存在にも思えます。
希望の先に何もなければ、そこには絶望か信仰しかないということでしょう。

超常的な力を完全に信じることで、人は心の安定を得ることも出来る。
おそらく、昔の強迫症の人達は、お祈りや神への儀式といった神聖なことに浄化を求めたのではないでしょうか。
今でもいると思いますが、現代日本ではその形が変わったわけです。

SSRIは割と安全な薬です。
あとは精神的にどうかなので、効かないと思って飲むよりも、効くと思って飲んだほうが効果的かもしれません。
なので、SSRIこそ、強迫性障害に効く薬としておきます。