強迫性障害の全貌

強迫性障害の知識の普及 Link Free

強迫性障害の原因/強迫観念と侵入思考の違い

強迫観念が浮かびやすいのは、根本的には刺激に敏感でストレスに弱いことが原因となっています。

前回書きましたが、通常、刺激や情報は、感覚器官→神経→脳→心と伝わりますが、過敏であると、感覚器官→神経→脳→心のルートの全てに刺激や情報が伝わったまましばらく停滞して消えなくなります。

それが不快な情報であるほどそうなりますが、その情報を心でうまく処理できずに、心→脳→神経→感覚器官という情報伝達が逆流するような状態になり、体全体が心(思考、イメージ、記憶、気分、感情など)に長々と過敏反応します。

もちろん現実から入ってきたストレスも感じ続けることになり、心身がストレスで一杯になっている状態に、新たなストレス情報が入ってくると、そのストレスに対して拒絶反応が起こり、その拒絶反応と結び付いた思考が強迫観念になります。
それを解消するために強迫行為をするのです。

恐怖症の恐怖観念との違いは、現実のストレス対象から離れて時間が経っても、ストレス対象への拒絶反応や強迫観念が慢性的、反復的に続くことです。
不快な記憶(トラウマ記憶)なども慢性的、反復的に続き、常時、頭から離れなくなります。

強迫観念は現実のストレスと結び付いていますから、トラウマによるストレス障害に近く、強迫観念が想像上の害であるという考えは間違っています。

もしそれが現実には起こっていないことであっても、患者は強迫観念自体に害されるのであり、その苦痛は、想像上の害ではなく、実害なのです。

例えば、毎日毎時間、不快な言葉、不快な映像、不快な写真、不快な夢を見せられれば、普通の人でもそれが苦痛であるように、強迫性障害であると、頭の中でそういった不快なことが次々と現れる状態になります。

しかもそれは、非現実の妄想などではなく、現実の何かと結び付いている現実的な思考です。

だからこそ、強迫行為で解消しなければいけなくなります。

まったくの非現実であれば、現実行為としての強迫行為では解消しませんから、強迫行為をしなければならない状態にはなりません。
ただし、非現実であっても、不快な思いですから、頭の中で、それを振り払おうとすることになり、これを侵入思考と言います。
侵入思考は強迫性障害特有の症状ではなく、不安思考ですから、うつ病などでも普通に起こるし、軽い侵入思考であれば、一般の人にも起こりえます。
これを強迫症に含めると、物凄い人数になってしまいますので、いちおう区別します。

強迫性障害の特有の症状としては、強迫観念と強迫行為があり、単に侵入思考が多いというだけではないのです。
強迫観念も侵入的思考なのですが、強迫観念は非現実ではなく、現実の何かと結び付いている現実的な思考ですから、強迫行為の症状が出るわけです。

非現実の侵入思考に対して、それは現実ではなく思いに過ぎませんから心配いりませんという説得ができても、強迫性障害の強迫観念に対しては、非現実でありませんから、ただの思考に過ぎないという説得ができないのです。
現実と結び付いているからこそ、思考であっても苦痛が強いのです。

一般的に言う強迫性障害の治療は、非現実の侵入思考に対する治療であり、現実と結び付いた(強迫行為の起こる)強迫観念に対する治療ではありません。

非現実の侵入思考(不安や心配)で、現実的な強迫行為をする人もいますが、強迫行為自体が元々無意味ですから、それは修正できます。
現実のことではないのですから、強迫行為をしなくても良いことに気付ければ良いのです。

ただし、現実的な(現実と結び付いている)強迫観念で強迫行為をするタイプは、強迫行為を止めても現実のストレスは消えませんから、強迫行為をするしかないのです。

アメリカ的な考え(DSM)では、強迫観念とは非現実の侵入思考(不安や心配)のことで、強迫行為は現実の問題を解消する行為ではないとされています。
認知行動療法をする上では、そういう病気のほうが適しているからです。

それで、現実と結び付いた強迫観念で、現実の問題を解消するために強迫行為をする人は、非現実の侵入思考を現実だと思っている妄想的な人としているのです。

これは完全に誤りで、強迫観念は現実と結び付いているからこそ、現実の強迫行為をしなければならなくなってしまうのであり、強迫性障害とはそういう病気なのです。

強迫性障害と言っても多種多様ですから、タイプによって治療法も異なります。
ですが、全ての強迫性障害を同じ1つの治療法で治そうとしているのが現状ですから、無理があるのです。

次回は、タイプ別の治療法の話です。